祝言

カテゴリー:ブライダル風景
2017.11.06

 

11月の連休、ご婚礼が多く行われました。

おかげさまで、司会のお仕事をたくさん承りました。

 

 

 

週末のご婚礼で、お目にかかった あるご列席のお祖父さま。

90歳を越えるお祖父さま。

婚礼のお席なのに祝謡がないのか、と。

ひとつ 自分が謡うから歌詞の用意はあるか、と。

 

 

以前、ホテルウェディングが主流になるよりも前のこと。

ご婚礼といえば神社でのお式が中心で、神殿のお隣にある参集殿でのご披露宴が多く行われていました。

 

私も新人司会者のころ、参集殿での司会でたくさんお勉強させていただきました。

 

当時、民謡大国 宮城でのご婚礼のお祝いといえば、なんといってもお唄が中心。

乾杯よりも前の披露式では、長持唄での入場、祝謡、さんさ時雨などがあってから、乾杯して、祝宴がスタートでした。

 

そのころは、当然 祝謡があったので、その歌詞が印刷されたカードが、お席へ配られている事がよくありました。

全員に歌詞を配らないまでも、会場で謡いたいとのご希望があれば、多くの会場で、すぐにお渡しできるご準備があったものです。

 

 

 

お祖父さまからの歌詞の準備はないのかとのお尋ねにハッとしました。

最近のご婚礼では祝謡をいただく機会が少なくなってきたこともあり、こうした歌詞カードの存在さえ忘れていました。

 

司会台の影で、スマートフォンで検索。

歌詞を調べて、サインペンで大きめの文字で書き写しました。

その紙をお祖父さまにご覧いただきました。

それではと、二番を謡っていただけるとのこと。

よかった。

 

 

まもなく91歳とは思えない どっしりとした 伸びて張りのある大きなお声での謡い。

会場全体が圧倒されました。

お客さまからの盛大な拍手。

 

祝謡をいただいた後にお礼にお席へ伺うと、お隣のお席の新郎のお母さまの瞳が潤んでいらっしゃいました。

お母さまがおっしゃるには、

この日、会場へご来館の際には車椅子だったというお祖父さま、

堂々とマイクの前に立って、孫のためにと祝謡を披露して、拍手を浴びて…もう思い残す事はないとおっしゃっていたと。

記念に私の手書きの歌詞をもらっていいかと。

 

進行表のうらに、大急ぎでササッと書いたサインペンの文字。

もっと丁寧に書けばよかったのですが、こんなに喜んでいただけるならよろこんで。

 

 

 

結婚ご披露宴で祝謡三番を謡いあげることが、結婚披露宴が「祝言」と呼ばれるようになった由縁でもあるそうです。

 

 

お祖父さまからは、言葉にならない感動をいただくことができました。

歌詞カードのご準備について「いたしかねます」「ご用意がございません」と、お断りする事は簡単です。

でも、限られた時間のなかでも、この感動のために司会者ができることはあると再確認できました。

 

 

 

 

 

 

祝謡

 

 

一、

 

ところは高砂の 尾上の松も 年ふりて

老の波も 寄り来るや 木の下かげに

落葉かくなるなるまでも 命ながらえて 名をいつまでもいきの松

それも久しき名所かな

 

二、

 

四海波 静かにて 国を治むる時津風 

枝もならさぬ 御代なれや 
あいに相生のまつこそ 目出度かりける 

げに仰ぎてもこともおろかや かかる世に 
住める民とて豊かなる 

君が恵みぞありがたき

 

三、

 

高砂や この浦舟に 帆をあげて 

月もろともに出汐の 
波の淡路の島影や 遠く鳴尾の 沖過ぎて 

早や住之江にぞ 着きにけり

 

 

 

 

今後、突然の祝謡の場面に対応できますように、ここにメモしておきましょう。

 

 

 

 

 

フリーアナウンサー 三浦貴子

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